○ちっごの生命いのちをつなぐ食育条例

平成19年3月26日

条例第11号

前文

人は地球上に生命いのちを得てよりこのかた、自分を取り巻く自然環境の中に生存する動・植物を自分の「食」とし、生命いのちを次の世代へとつないできました。食は、人間にとって一番大切な「生命いのちの糧」であり、健全な心と身体を培う基礎となるものです。

私たちが暮らす筑後市は、温暖な気候と肥沃な土地、恵まれた水を利用して、米、麦をはじめ、いちご、梨、ぶどう、茶などの農業が盛んに行われています。そして伝統行事と相まって、郷土の食文化が生まれ受け継がれてきました。

戦後の食糧難の時代から、現代は飽食の時代といわれ、「食」の急激な変化がおきています。私たちは、近年の食習慣の乱れなどから、生活習慣病の増加、食物アレルギーの発現や免疫力の低下など深刻な問題を抱え込みました。さらに、食料の多くを輸入に依存しており、消費者の食の安全性に対する不安は高まっています。一方で多くの食べ物を廃棄するなど資源の浪費や環境への影響が懸念されており、それは筑後市においても例外ではありません。

こうした環境の変化の中、私たち一人ひとりが、自然の恩恵や食に関わる人々の活動への感謝の気持ちと理解を深めることが必要です。また、様々な経験を通して食に関する知識や食を選択する力を習得し、生命いのちをつなぐ力を培うための「食育」を推進していくことは極めて重要な課題です。

とりわけ子どもたちに対する食育は、生涯にわたって健全な心と身体、豊かな人間性を育んでいく基礎となるものです。食に関する様々な体験をする中で、自分で考え、選択する力を養うことは、食と農と健康への理解に繋がるものです。

食育は知育、徳育及び体育の根幹を成し、健全な心身や社会性を形成し、生命いのちへの尊厳を高めるものです。地域の特性をいかしながら、全市民的な運動として「食育」の推進に取り組み、健康で安心して暮らせる温かいまち筑後市をめざし、この条例を制定します。

第1章 総則

(目的)

第1条 この条例は、食育基本法(平成17年法律第63号)に基づき、本市における食育の推進に関する基本理念を定め、市、市民、関係者等の責務を明らかにするとともに、市の施策の基本的事項を定め、総合的かつ計画的に食育を推進することにより、健康でいきいきとした市民の生活と活力ある地域社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) 食 食物の生産から流通、加工、調理、食事及び廃棄に至るまでの広範な事象をいう。

(2) 食育 知育、徳育及び体育の基礎となるべきものであり、健全な心と身体を培うために食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てる取組をいう。

(3) 市民 市内に居住する人、市内に通勤、通学する人、観光その他の目的で筑後市を訪れた人をいう。

(4) 地産地消 地元で生産された農畜産物及びそれを原料とする食品を地元で食することをいう。

(5) 関係者等 次に掲げる者及び団体をいう。

 教育関係者等 教育、保育、社会福祉、医療及び保健に関する職務に従事する者並びにその関係機関及び関係団体

 農業従事者等 農業従事者及び農業に関する団体

 食品関連事業者等 食品の製造、加工、流通、販売又は食事の提供を行う事業者及びその組織する団体

(基本理念)

第3条 本市における食育は、次に掲げる基本理念に基づき推進するものとする。

(1) 市民が食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、市民の健康の増進と豊かな人間形成に資するために行うこと。

(2) 父母その他の保護者及び子どもの教育、保育等を行う者は、家庭及び教育、保育等の場における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこと。

(3) 食は、自然の恩恵の上に成り立っていることから、豊かな自然や食に関わる人々の様々な活動に対して感謝の念や理解を深めるとともに、自然環境の保全に努めること。

(4) 市民があらゆる機会や場所を利用して、食料の生産から消費に至るまでの食についての様々な学習及び体験活動を実践するよう努めることにより、食と農と健康に関する理解を深めること。

(5) 筑後地域に古くから伝わる食文化を大切にするとともに、地域の特色を生かした食生活に配慮し、農業生産者と消費者の交流を図りながら、地産地消を推進し、産業及び観光の振興に努めること。

(6) 食品の安全性を確保することが食生活の基本であることから、食と農と健康に関する幅広い情報の提供及び意見交換を通して、適切な食生活の実践を図ること。

(市の責務)

第4条 市は、前条に定める食育の基本理念(以下「基本理念」という。)に基づき、市の特性を生かした総合的かつ計画的な施策を実施するよう努めるものとする。

2 市は、市民に対し食育の推進に関する施策の普及啓発を図り、関係者等の理解を得るよう努めるものとする。

3 市は、食育を推進するため、必要な財政上の措置を講じるよう努めるものとする。

(市民の責務)

第5条 市民は、家庭、学校、幼稚園、保育所、職場、地域その他あらゆる場所において基本理念に基づき、生涯にわたり健全な食生活の実現に自ら努め、食育の推進に取り組むとともに、市が実施する食育推進の活動に協力するよう努めるものとする。

(関係者等の責務)

第6条 関係者等は、基本理念に基づき、事業活動を通じ、自主的かつ積極的に食育の推進に努め、市が実施する食育推進の活動に協力するよう努めるものとする。

第2章 基本的施策

(健康の増進)

第7条 市は、基本理念に基づき、市民の健康増進を図るため、次に掲げる施策を講じるよう努めるものとする。

(1) 子どもの成長・発達段階における栄養問題や生活習慣病予防に関する指導等、全てのライフステージにおいて食と健康増進に関わる施策を推進すること。

(2) 食と健康増進に関わる知識の普及啓発を推進すること。

(3) 市民及び関係者等(以下「市民等」という。)が行う食と健康増進に関わる活動に対して支援すること。

(4) 保健所、教育機関、医療機関等と連携を図り、積極的に食育を推進すること。

2 市民等は、基本理念を理解し、次に掲げる活動に努めるものとする。

(1) 自主的に食と健康増進に関わる知識を学び、これを実践すること。

(2) 市が講じる施策に協力し、参画すること。

(教育・学習活動の推進)

第8条 市は、基本理念に基づき、教育の実践を推進するため、次に掲げる施策を講じるよう努めるものとする。

(1) 学校、幼稚園、保育所等(以下「学校等」という。)における食育推進の指針作成の支援、教職員等への意識の啓発及び地域の特性を生かした給食の実施への理解を図ること。

(2) 子どもたちが、地域や学校等において、栄養、健康増進、自然環境の保全、循環型社会の構築、地産地消、地域の伝統食や行事食等の食文化並びに食の作法等に関する学習及び体験(以下「食の学習及び体験」という。)に参加できるよう配慮すること。

(3) 市民等が、家庭や地域のあらゆる機会を通じて、食の学習及び体験に参画できるよう努めるとともに、その活動を支援すること。

(4) 食育を指導する人材を育成すること。

2 市民等は、基本理念を理解し、次に掲げる活動に努めるものとする。

(1) あらゆる機会を通じ、生涯にわたって自らが主体的かつ積極的に食に関する学習等に参画すること。

(2) 市が講じる施策に協力すること。

(環境の保全)

第9条 市は、基本理念に基づき必要な環境保全を図るため、次に掲げる施策を講じるよう努めるものとする。

(1) 農地等の環境、河川・クリーク等公共用水域の水質及び自然の景観を良好に保全すること。

(2) 前号の取組を行う市民等の活動に対して支援すること。

(3) 市及び市民等の活動により発生する廃棄物の抑制、再利用等を推進し、循環型社会の実現をめざすこと。

2 市民等は、基本理念を理解し、次に掲げる事項に努めるものとする。

(1) 自主的に自然環境等の保全及び循環型社会の実現をめざすこと。

(2) 市が講じる施策に協力すること。

(産業の振興)

第10条 市は、基本理念に基づき、食料の生産及び供給を安定的に維持するため、次に掲げる施策を講じるよう努めるものとする。

(1) 市内における地産地消を推進するため、食材の種類及び数量を確保し食料自給率を高めるとともに、農業の振興及び地場産業の活性化を図ること。

(2) 生産者と消費者の農作業体験を通しての交流など、市民等が実施する活動を支援すること。

(3) 関係者等との連携を図り、農村の活性化を促す施策の調査研究を行うとともに、食に関する産業振興につながる資源の研究開発等を行うこと。

2 市民等は、基本理念を理解し、次に掲げる事項に努めるものとする。

(1) 地産地消の推進を図るため、市内で生産し、それを原料に製造し、又は加工された食材等を消費すること。

(2) 市が講じる施策に協力すること。

3 農業従事者等及び食品関連事業者等は、基本理念を理解し、食材を提供する誇りを持って自らの事業の推進及び発展に努めるものとする。

(安全で安心な食育の推進)

第11条 市は、基本理念に基づき、安全で安心な食育の推進を図るため、次に掲げる施策を講じるよう努めるものとする。

(1) 市民等が安全で安心な食生活ができるよう支援すること。

(2) 食品の安全性、食料の生産、自然環境の保全、循環型社会の構築等について調査及び研究を行うとともに、広く食生活に関する適切な情報を収集整理し、市民等に迅速かつ的確に提供すること。

2 市民等は、基本理念を理解し、相互の連携を深めるとともに、衛生の保持等安全で安心な食生活の環境づくりに努めるものとする。

第3章 推進計画及び推進体制

(食育推進計画)

第12条 市は、食育の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、国の食育推進基本計画及び県のふくおかの食と農推進基本指針に基づき筑後市食育推進計画(以下「推進計画」という。)を策定するものとする。

2 推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

(1) 食育の推進に関する施策についての基本的な方針

(2) 食育の目標に関する事項

(3) 市民等が自主的に行う食育推進活動の促進に関する事項

(4) 前3号に掲げるもののほか、食育の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 市長は、推進計画を策定したときは、これを公表するものとする。

4 前項の規定は、推進計画の変更について準用する。

(推進体制の設置)

第13条 市は、推進計画の策定及びその実施を推進するため、ちっごの生命いのちをつなぐ食育運動推進会議(以下「運動推進会議」という。)を置く。

(組織)

第14条 運動推進会議は、会長及び委員20人以内をもって組織する。

2 会長は、市長をもって充てる。

3 会長は、会務を総理し、運動推進会議を代表する。

4 会長に事故あるとき又は会長が欠けたときは、あらかじめ会長の指名する委員が、その職務を代理する。

5 委員は、次に掲げる者のうちから市長が委嘱する。

(1) 市民

(2) 識見を有する者

(3) 関係団体等の推薦する者

(4) 行政機関の代表

6 委員の任期は、2年とする。ただし、再任を妨げない。

7 補欠委員の任期は、前任者の残任期間とする。

(会議)

第15条 運動推進会議は、会長が招集し、会議の議長となる。

2 運動推進会議は、委員の過半数が出席しなければ会議を開くことができない。

3 運動推進会議の議事は、全会一致による運営に努め、決定できない場合は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは議長の決するところによる。

4 会長は、必要があると認めるときは関係者に対し意見を述べさせ、又は必要な書類を提出させることができる。

(部会)

第16条 会長が必要と認めるときは、運動推進会議の所掌事務を分掌するために部会を置くことができる。

(庶務)

第17条 運動推進会議の庶務は、市民生活部健康づくり課において処理する。

第4章 雑則

(委任)

第18条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、別に定める。

この条例は、平成19年4月1日から施行する。

ちっごの生命をつなぐ食育条例

平成19年3月26日 条例第11号

(平成19年4月1日施行)